続々 日経コンピュータの「超高速開発」特集

ひとつの記事で、ちょっと引っ張りすぎかとも思いますが、もう少し。

この記事で違和感を感じていたことがもうひとつあります。それは、

「超高速開発」が日本を救う

という見出し。システム開発が速く効率的に進められるに越したことはないのですが、それがそのまま日本を救う…? もちろん見出し特有の誇張だとは思いますが、一方で裏を返せば、開発が速くできればそれでOKという意識が垣間見られて…ちょっと穿ち過ぎでしょうか。

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一般的なユーザ企業で利用される(コンピュータ)システムの技術には大きく2つの方向があると私は思っています。

  • システム開発ツールや開発方法論などシステムの開発効率をあげる方向。
  • システムをどのように使って現実の問題に対処するか、システムをどのように現実の問題に応用していくか、という方向

私も学生時代を含めると30年近くこの分野に携わっていますが、私の見るに日本の企業向けシステム技術の方向が、ここのところ…というかJavaやUMLが出てきた10数年前から開発効率をあげること…開発方法論とか開発ツール、開発言語に偏重しているような気がしています。

もちろん開発効率をあげることは重要であり、未だに企業内の情報化が進んでいない企業などでは、最重要の課題であることもわかります。その上でやはり、世間一般で、「そもそもどんなシステムを作るのか」という議論が少ないように思うのです。

もっとも私自身、開発方法論こそが大事…と思っていたことがありました。そのころは企業内のコンピュータシステムは汎用機全盛の時代。システム全体での新人研修の言語はCOBOL。構造化プログラミングの話とか。学生時代に多少なりとも抽象データ型とかオブジェクト指向とかを齧ってきたものにとっては、…う~ん。という時代でした。

そんなときに最初に配属されたのが、人工知能やORを用いて生産計画(などなど)のシステムをつくるようなところ。それこそ「システムをどのように使って現実の問題に対処するか」の技術の部署でした。
最適化手法や人工知能など、技術としてそれなりにはおもしろかったのですが、個人的にはシステム開発の方法論が(生意気にも)あまりにもナイーブだなと思って、オブジェクト指向の勉強(*1)をやっていました。

それが、UMLやJava、そしてデザインパターンなどが出てきて世の中の流れが一気に方法論に傾き始めたように思います(特に日本)。もちろんこれによりさまざまな洗練された開発手法がうまれてきたことは確かですし、それ自体は喜ばしいことではあるのですが、一方でそもそもコンピュータを使って何をやるかというところについては停滞気味になってしまっていったのではないでしょうか(特に日本)。そんな中、ここ10数年インターネットが普及するにつれ、従来の企業のシステムからは考えられないようなインターネット上のサービスがうまれてきています。検索エンジンしかり、SNSしかり、動画共有サイトしかり、ECしかり…これらはいずれも「システムをどのように現実の問題に応用していくか」という問いの上に生まれてきたものです。インターネットの世界では、まず「何をつくるか」があります。

翻って従来からの企業のアプリを考えたとき「何をつくるか」というのはだいたい決まっていて、それを「どう効率的に開発するか」ということが焦点になりがちです(特に日本)。

…そろそろ企業のアプリ開発でも、「何を作るか」ということにもうちょっと重心を移していって良いのではないでしょうか(特に日本)。

私が仕事で生産計画や人工知能をやっていたのは20年以上も前。そのときはコンピュータパワーの貧弱さがひとつのネックとなっていました。しかし現在、iPad2などは、そのころの一般的なスーパーコンピュータのひとつCray2/4と同等だとか。昔を知っている人ならわかると思いますが、あのCray(*2)が街中に、電車の中に、家の中にころがっているのです。

こんな時代に20年前と同じような発想でアプリを考えていてはもったいないでしょう。昔できなかった最適化の計算などは、普通に行けたり^^。最近流行りつつある「ビッグデータ」の分析などは、これからのひとつの方向を示しているのかもしれません。

(また、このコンピュータパワーの飛躍的な増大がなければ、(ビジネスルール特化型の)BRMSは存在し得なかったでしょう。)

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実は(ビジネスルール特化型の)BRMSの世界では、以前からの謳い文句「ビジネスの変化に合わせてITも変更」というところから一歩進んだところ、たとえばデータ分析とBRMSとを組み合わせた意思決定の最適化という方向に重点がシフトしていきつつあります。つまり、開発・保守のスピードを問題にするのではなく、そのスピードを前提にしてそれらをどう活かしていくということが焦点になってきています(*3)。

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というわけで、

「超高速開発」

するのはよいのですが、それだけで

日本が救われる

とは思えません(笑)。

今の時代、開発が「超高速」かどうかはともかく、定型的な開発などはできるだけ無駄を減らし、手間をかけずに、自動生成できるところはできるだけ自動生成ですませる。そして、システムを現実の問題の解決のためにいかに適用していくかというところ、システムに「付加価値」をどうつけていくかという部分により注力していかないことには「日本は救われない」のではないでしょうか。

「超高速開発」を前提として、その一歩先の話が議論されていくようでないと「日本を救う」と言えないのではないでしょうか。

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最後の方はかなり調子が高くなってしまいましたが、前回の記事で自動生成ツールについて使えるところではどんどん使っていけばよいと書いた真意はそこにあります。

過去20年間で、コンピュータパワーは飛躍的にアップし、またシステムを利用する要素技術も格段に進歩しました(たとえば機械学習などを含む統計的な数々の手法など)。一方でこれらを現実に適用していくことに関しては緒に就いたばかりで、これからの大きな発展が期待されています。

いままで仕事として、ユーザの業務にも、システム技術にも向き合ってきたはずのSEは、これからのシステムの応用技術を開拓し、新たなビジネスモデルを考えていくのに恰好な人材だと思っているのですがねえ。

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*1 : ちなみに、そのころ読んだのは、バートランドメイヤーの「オブジェクト指向入門」の第1版。これはおもしろかったです。私のオブジェクト指向の知識のベースはこの本、類いまれなる名著だと思います。
今は第2版が出ていますが、2分冊になってそれぞれが辞書みたいに分厚いのでさすがに読む気になりません(^^;)・・・でも、たぶん読んだらとても勉強になると思います。その他にはOMTBooch法Coad&Yourdonの本などを濫読していました。

*2 : そのころはスーパーコンピュータといえばCray、Crayといえばスーパーコンピュータという時代でした。もちろんNECや富士通など日本勢も健闘してはいましたが、デザイン面でのCrayのインパクトにはかないませんでした。

*3 : この辺は、BRMSの記述はあまりありませんが、ちょっと古いダヴェンポートの本。さらに最近の本としては、James TaylorのDecision Management Systemsとかが参考になるかと思います。

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