ルールベースAI – イアン・ブレマー氏の記事から –

何年ぶりかの投稿になってしまいましたが、またぼちぼちと書き溜めていこうかと思っております。

さて、木曜日(26日)の日経新聞朝刊にイアン・ブレマー(毎年、今年の10大リスク…などとよく新聞に載っている、あのイアン・ブレマー氏です)が、オピニオン欄でこんなことを言っていました。「中国はこれからも強いのか」という記事の中で以下のように語っています。

(…略…)
確かに人権保護の制約がない中国では米国をはるかに上回るデータを収集できる。だが、それだけでAIの総合力は決まらない。
AI技術は、読み込ませたデータから得られる経験則に基づき診断や予測を導く「機械学習」だけにとどまらない。人類の「知識」や「常識」をプログラムに織り込んでおく「ルールベースAI」という方法論もある。世界の先端研究者たちは両者の良さを融合したAIの確立を急いでいる。
(…略…)
(日本経済新聞 2022年5月26日朝刊 「中国はこれからも強いのか イアン・ブレマー氏」から引用)

地政学イメージ図中国のAIと米国のAIとの比較の文脈の中で出てきた言葉ですが、政治学者のイアン・ブレマーの口から「ルールベースAI」という言葉が出てきたことにちょっとびっくりしてしまいました。「ルールベースAI」はBRMS(BDMS)の基盤となっている基礎技術。というかルールベースと言えば、ほぼそのままBRMSなのですが、ここではもうちょっと広く知識・記号処理型のAIを意味すると考えるべきでしょうか (ルールベースが知識・記号処理型のAIの分野の中でどういった位置づけにあるかというのは、いずれまとめておこうかと思っています)。

ここ何年かAIの潮流は、「データ」命とも言える、統計的機械学習、「データ駆動」のAIが主流となっていましたが、

①学習に大量の教師データや計算資源が必要であること
②学習範囲外の状況に弱く、実世界状況への臨機応変な対応ができないこと
③パターン処理は強いが、意味理解・説明等の高次処理はできていないこと
(第4世代AIの研究開発 -深層学習と知識・記号推論の融合- 国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 2020年3月 から)

という限界も見え始め、知識・記号処理のAIも見直されてきています。確かに知識が明文化されているものであれば、それをきちんとインプリメントして供することで事足りるはずなのに、わざわざ機械学習をするまでもないわけです(たまに首をかしげるような機械学習AIの適用の仕方を小耳にはさんだりします(笑))。

こんな状況を受け、最近のAI技術の動向、特に研究においては、第4世代AI データを元に帰納的に学習をしていくデータ駆動AIと、演繹的な知識・記号処理型のAIの融合がさかんになってきています。

ニーズ即応型技術動向調査「AI関係技術ー演繹と帰納の融合ー」 特許庁 令和3年12月

現実においても

「データ×人知」AIで実務革新 シンガポール新興タイガー 経理や法務、安価で正確 日本経済新聞 2021年1月22日

AI運用「人との協働」で好成績 コロナ禍しのいだ想像力 日本経済新聞 2021年10月21日

など、データ駆動のAIと意味を理解する人間/AIの協働作業で、データ駆動AI単独では得られないパフォーマンスをあげている事例も見られます。

そういえばフリースタイルチェス(コンピュータと人間が協働したチーム間で対戦するチェス)で最初に優勝したのは、すぐれたAIを持ったチームではなく、AIと人間がうまく協働できたチームだったとか(実際優勝したチームは、そこそこのAIとアマチュアのチェスプレーヤーが協働していた)。決して、トップのAIを持っていたチームでも、チェスの人間のチャンピオンを擁するチームでもなく、そこそこのAIとアマチュアのチェスプレーヤーが協働したところが優勝したというところが面白いところ。これからの時代、人知とデータとがうまく協働することが重要なことなのでしょうね。

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