ビジネスルール管理システムとエキスパートシステム(2)

(前回の続き)
ビジネスルール管理システム(BRMS)とエキスパートシステムとの違いとして、前回あげたのは適用する分野が違うということでした。まずは、その説明から

1.適用する例が違う

現在BRMSが使われている事例としては、入力データの相関チェックとか、保険などの査定などが多く見られます。これらは、処理そのものはそれほど複雑ではありません。また実装されるルールも規程などですでに明文化されていたり、仮に明文化されていないものであっても明確に表現することが可能なものであり、根拠がはっきりしていることが特徴です。

一方エキスパートシステムの事例は、医療診断や生産計画など、いわゆる専門家と呼ばれる人々の知識をルールの形で実装していくものであり、処理が一般的に複雑です。また、実装されるルールの多くはエキスパートの頭の中だけに存在する暗黙知であり、知識を引き出すのが難しいうえ、その根拠も不明瞭なケースが多々あります。

たとえばこんな感じ・・・
PETボトルの原料であるPET樹脂はさまざまなところで使われており、溶かしてフィルム上に加工し、ポイントカードのベースや、コンデンサーの絶縁体等々に使われていたりします。こういったフィルムに加工するラインの生産計画を立案するエキスパートシステムでは、たとえば以下のようなルールがありました。

「濃色の品種のあとに、ライン洗浄せずにより淡色の品種を生産してはいけない」

(フィルムには、透明なもの、淡色のもの、濃色のものなどがあり、またラインも定期的に洗浄したりします)

このルール、常識的に考えれば素人でも理解はできる当たり前のルールですが、必ずしもMUSTの条件ではありません。納期や生産量の都合と品質上の歩留まり等をてんびんにかけてあえて破ったりすることもあります。この、さまざまな状況を勘案してあえて破ることができる能力を持つというのが専門家の専門家たる所以なのでしょうが、この「さまざまな状況を勘案する」というところの知識を専門家から引き出してルールに落としていく・・・
そうしてできたシステムがエキスパートシステムになります。

こういった知識を引き出してくるのが簡単なことでないことは容易に想像のつくところ。実際エキスパートシステムが流行っていたころは、知識獲得という技術を持ったナレッジエンジニア(KE)という言葉があったものでした。

それに比べ、BRMSが対象とするルールは、

入力された銀行コードが銀行マスタになければエラーを出す
最高血圧140以上、最低血圧100以上なら血圧の評点が50
業種が建設業の企業の保険料率は○○

など、いわゆる普通の業務システムの仕様に書かれていてもおかしくないようなルールです。

以上のことをまとめると、

  • BRMSが対象としているのは、普通の業務システムが普通に実装しているようなビジネスロジックをもつ分野
  • エキスパートシステムが対象としているのは、通常の業務システムの手法ではおよそ対応ができないような複雑なビジネスロジックを持つ分野

ということになります。
ところで、BRMSが普通の業務システムが普通に実装しているようなビジネスロジックを対象としているというのだったら、これからわざわざBRMSを導入する必然性がないではないかという疑問がでてくるでしょう。これに対する回答は今回の記事の趣旨からはずれるので別途あらためて記事にしようかと思っていますが、簡単に言うと

  • ビジネスロジックの変更のしやすさ
  • ビジネスロジックの見える化

ということになるかと思います。ビジネスロジックをルールの形でシステムの他の部分から切り離して外部化することにより、上に書いたように、変更のしやすさ、ロジックの見える化が実現できます。

上記の対象の違いによって、次にあげる

2.開発ツールの力点の違い

もあらわれてくることになります。(この項続く)

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